相続法については、昭和55年に配偶者の法定相続分が引き上げられて以来大きな改正なく今日に至っていますが、その間、我が国の相続の状況は様変わりしました。昔は亡くなる方の年齢が60~70代だったのが、今では80~90代が平均です。それに伴い、相続人側(配偶者や子など)の年齢も高くなってきています。そのような中、特に残された配偶者の生活保障の問題が大きくクローズアップされてきており、また、介護や病気治療や認知症の問題を抱える高齢者が増えてきています。
そのような状況を踏まえて、相続法の改正案は法制審議会で3年間審議されてきました。そして、正式な改正要綱案が今の通常国会に提出され、成立すれば、早ければ来年にも施行となるかもしれません。
今回は、その改正要綱案の概要をお伝えします。
① 配偶者の居住権を保護するための方策
(ア)短期居住権の新設
配偶者が相続開始の時に遺産である自宅建物に居住していた場合には、「遺産分割により自宅建物の承継者が確定した日」又は「相続開始の時から6ヶ月を経過する日」のいずれか遅い日までの間、無償でその自宅建物を使用する権利を有することとする。
配偶者はこの権利を無条件で取得します。これにより、遺言や遺産分割で誰が自宅建物を相続することになったとしても、配偶者は一定期間この自宅に住み続けることができるようになります。
(イ)長期居住権の新設
配偶者が相続開始の時に遺産である自宅建物に居住していた場合には、(a)遺産分割(b)遺贈 (c)死因贈与契約 のいずれかにより、終身又は一定期間、配偶者は無償で使用する権利を取得することとする。
短期居住権とは異なり無条件に認められるわけではなく、遺言による指定や遺産分割協議で合意があったときに、配偶者にはこの長期居住権が認められます。ただし、この居住権を民法上も税法上も幾らと評価するのかは、未定です。
② 遺産分割に関する見直し
(ア)配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定)
婚姻期間20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住用建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、持戻し免除の意思表示があったものと推定して、遺産分割や遺留分の対象財産から除外することとする。
(イ)仮払い制度等の創設・要件明確化
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、その相続開始の時の債権額の3分の1に当該共同相続人の法定相続分を乗じた額については、単独でその権利を行使することができることとする。
③ 遺言制度に関する見直し
(ア)自筆証書遺言の方式緩和
財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書でなくてもよいものとする。ただし、その目録ページには遺言者の署名・押印が必要。
(イ)自筆証書遺言の保管制度の創設
遺言者は、法務大臣の指定する法務局に対し、自筆証書遺言の保管を申請することができる。なお、これにより保管されている遺言書については、相続発生後の検認手続きを不要とする。
④ 遺留分制度に関する見直し
(ア)遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し
遺留分権利者は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる。
(イ)遺留分算定方法の見直し
相続人に対する特別受益は、相続開始前10年間にされたものに限り、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入する。ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与したときは10年前の日より前にされたものも遺留分の対象とする。
⑤ 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し
相続による権利の承継について、遺産の分割によるものかどうかに関わらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないものとする。
⑥ 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
相続人以外の親族が無償で被相続人の療養看護その他の労務の提供を行って被相続人の財産の維持又は増加について特別な寄与をした場合には、相続の開始後、その者は相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭の支払いを請求することができる。
今後の国会等における審議によって、法制化されるまでに内容が変わる可能性もありますし、施行時期も未定です。改正されれば、根本的な相続対策の見直しが必要になるかもしれません。今後の動向を大いに注視していきましょう。